時折、自分が過去の中で砂の城のように崩れて海にさらわれていくように感じる。文字に起こされていない言葉による思考は、なぜ存在していたと言えるのか?歴史は、記憶と記録に存在するが、どちらもなくなれば、その存在はもはや証明不可能になる。かろうじて自分の思考を……ザクッ!ナイフで突き刺す……紙に書かれた文字をコルクボードに固定し、私の記憶を繋ぎ止める……ということを、バイオリメイク4、RE4をやり終えた深夜2時に考えていた。
しかしRE4の感想を述べる前に、それまでのREに対する雑感は外せない。このバイオハザードへの複雑な気持ちは今だけにフォーカスできるものではない……。
さてRE2は2020年にプレイ。グラフィックと演出とビジュアル表現が映画っぽくていいねと思ったものだ。反面、シナリオは不満だった。短いし、レオンとクレアの絡みも全く無く、別にいなくても成立するシナリオで、ゲームに全く生かされていないことが強く不満だった。原作からして大して絡みはなかったが、レオン裏編でクレアに一方的に下水道に行くと無線で言われ切られたあと「...Womans!」と悪態をついていたのは印象に残っている… そういうものがないのが、残念だった。リメイクでは、最初に会って、次に金網越しに会って、次は終盤研究所のモニター越しで、非操作キャラの影がうすすぎる。ザッピングシステムはゲーム的には別に面白くはなかったが、そのキャラの通った時系列を感じさせるには良いシステムだった。そういう細かいディテールは取り払われてしまった。合理化、予算重視… 遊び心というものを感じられず、徹頭徹尾ビジネス的に作られたもののように感じた。おいしいのに、味気ない。これがいわゆる大企業病というやつだろうかなどと思ってしまった。だが遊び心の純粋な塊を作っている任天堂を見るに、スタンスの違いなのだろう。
実はREシリーズにはそれですっかり失望して、RE3、RE4が発売されても気になったものの買う気にはなれなかった。数年経った。しかしながら、「まあ悪くないけど褒められる出来ではないよね」と思ったラノベの続きを買わないと決めるも、やはり気になり、数カ月後に買ってしまうような現象の名前を決める前にとうとう購入した。アクションゲームの金字塔バイオ4……リメイクはそれなりに気になっていたのだ。RE3はおまけだ。ブラックフライデーセールに購入した。
steamの明細を見てみよう。RE3,RE4,この2つセットで4591円だ。映画2本分くらいの値段感だな。コンシューマーゲームが手間の割に儲からないと言われている理由がよく分かる……そりゃみんな基本無料ガチャゲーを作りたがるわけだ。カプコンも昔アウトブレイクのタイトルでソシャゲをやってたよね?プラットフォームはGREEだったか?。あの頃は怪盗ロワイヤルのヒットに続けと言わんばかりに、 留守泥棒型の対戦ソシャゲがいくつもあった。現実には、そういうものを継続的に収益可能なタイトルに仕立て上げるためには、畑を耕すよりも手間がかかるようだが……
話が逸れた。11月か12月のはじめあたりにRE3にようやく手を付けたが、RE2と同様、手放しに称賛できる出来ではなかった。良く言えばコンパクト、悪く言えばボリューム不足で肩透かし。気づけば「えっもうこの場面?」状態。初見プレイで6時間で終わってしまう出来は、近年のメインシナリオコンパクト志向の流れからしてもあまりにも短すぎる。SDGsとかなんとか理由をつけて通帳を終わらせる銀行のようなものを感じた。「時間のない社会人の方でもプレイしやすいよう、コンパクトなボリュームで再登場!CO2削減のため、原作にあったマーセナリーズは実装いたしません。各自でご用意ください」
もっとも演出、ビジュアル表現、緊急回避の実装は気に入った。原作の緊急回避は影が本当に薄かったから。原作と比較して褒められるところといえばそのぐらい。
諸々のショックとゼンゼロとドルフロ2から一段落した年末休み、狙ったようにインフルエンザにかかっていた頃、RE4に手をつけた。正直、期待値は地に落ちて、そこからゆで卵が跳ねた程度の高さになっていた。ひろゆきのCoefontで異様な数のRE4解説動画を作っている人の存在は知っていた。2や3にそんな情熱のある人は見かけなかったから、それはハマる余地:ハマリティの存在を示唆するものだった。だが一方でそれを理由に過去の疑念を払拭できるわけもなく。
結果から言うと、まあ合格点をくれてやるよ、ぐらいの気持ちになれるゲームだった。少なくとも、RE2やRE3とは別格の楽しさがあった。1周目で16時間。
原作でやや間延びに感じられていたような要素はことごとく削られ、短い道のり、さほど広くないステージで濃度の高い戦闘を何回もこなすことになるのは良かった。体術があるとダイナミックで画面映えもするものを作れるということだろうか。体術の発明は素晴らしい……
村の時点ではやはり操作が覚束なくかなりボコボコにされストレスでプラーガに神経を食い荒らされる気分だが、ナイフパリイを上手く使えるようになってからは接近戦を厭わず挑めて体術やりまくり足回りまくり!というわけでしてこれが緊張感あって楽しい。基地に入ってからのスタンロッド相手にはガードしきれないというのも難易度として良かった。
また、シナリオの魅せ方も非常に良くなっている。原作の寄生虫描写は本当にあっさりしてて、古城の途中で薬をもらって止めることもあって影が薄かった。一方こっちは幻覚描写が頻繁に入るし、サドラーのコントロールが割り込んでくる演出も何回もあるものだから、きちんとプラーガがシナリオ的にも骨子に組み込まれている感じがある。グラフィック描写もずいぶん進化したから、終盤の肌の痛ましさといったら目を覆いたくなるほどだ(そして、プラーガを除去してから治るのも速すぎだ!)
キャラも際立つ。苦難の中で肝が据わっていくアシュリー、まともに受け答えしないハンサムなプー、きちんと掘り下げが追加されたクラウザー(なんか憎めないヤツみたいな死に方しとって草)、出番は少ないが第3勢力を意識させるエイダ、ちょっと気持ち悪くなったサラザール、ボス感が増したサドラー。不満といえば、サラザールの三角帽子が取られて貴族的に正しい感じになっていたことぐらいだ。なお、なぜか三角帽子サラザールの像は存在する…
レオンとアシュリーの掛け合いも洋画感が強くて良かった。皮肉なしに喋れないのかと思うほどまともに受け答えしない!
強調されているのはナイフの役割だった。ナイフパリイ、ナイフステルスキル、ナイフフィニッシャー、ナイフ反撃、ナイフ追撃等……様々な使い所が追加され、耐久値も決して多くなく、「ああ、うっかりミスでまた消費しちまった」「サバイバルナイフも折れて予備のナイフ一本だけでピンチ」ということを嫌でも意識してしまう。愛人ナイフ、ナイフは人類の最も古い友人であるという架空の言葉が頭に浮かぶほどの存在感を放っている。なんというか、原作で有名になった「接近戦ではナイフの方が速い」がすごく影響しているように感じる。ある意味で整合性が強くなったと言える。原作のナイフはダウンしたやつに追撃するか、樽や箱や錠を壊すぐらいでしか使わなかったからね!Detroit:Become Humanの影の主役が銃だったように、RE4の影の主役はナイフになった。
一方で、「原作をベースにして、原作の所々をオマージュして現代的に仕上げ、遊びやすくコンパクトに作り直した」という感覚は否めなかった。ブラッシュアップしただけというか。これが原作バイオ4プレイ時の評価を超えられるかと聞かれると、首を捻ることになる。かといってガッカリゲーですかと聞かれれば、やはりそれも違う。なんというか、同じなのに違うゲームだ……。
評価:70点 楽しく遊べるように作られているが、一方で革新性や独自性には欠ける。シリーズの威を借りている感は否めない。もしこれが完全独自タイトルなら、"ゲームとしては" 歯牙にもかけられなかったと思う。時代の流れを感じさせる作品。「昔のフレーバーを復刻!」「まあおいしいけど……現代のほかの味と比べると……」